不倫慰謝料を請求されたら|減額の方法と示談書の確認点

男女トラブルの不倫慰謝料を請求されたときの対応|自分で交渉・示談書だけ依頼・全面委任の3つの選び方を解説するインフォグラフィック
PR

本サイトは、青山北町法律事務所が運営しています。記事内で相談先の一つとして同事務所をご案内する場合があります。比較・評価は執筆者の独立した判断によるものです。詳しくは運営者情報をご覧ください。

結論不倫慰謝料を請求されたら、金額の交渉に入る前に支払義務そのものがあるかを確認します。義務がある場合も、示談書の条項の書き方で最終的な負担額が変わるため、支払義務・金額・条項の3つを分けて検討する必要があります。

「明日までに回答しろと書いてある」。不倫慰謝料の請求書を受け取った方から、最初に聞くのはこの一言です。封筒を開けた瞬間から頭が真っ白になって、金額だけが目に焼きついてしまう。誰にも相談できないまま、期限だけが迫ってきます。

この記事では、届いた請求書を「支払義務があるか」「金額はいくらが妥当か」「示談書に何を書くか」の3階層に分けて検討する方法を示します。そのうえで、自分で交渉する・示談書だけ弁護士に依頼する・全面的に委任するの3つの対応を、費用と守れる範囲で比べます。減額できるケースの一覧ではなく、いま何から手をつけるかの順番を作ることが目的です。

執筆者 守屋葉子

守屋 葉子相談先選びの専門家

私は法律の専門家ではなく、「どこに相談すればいいか分からない」まま抱え込んでしまう人のために、相談先の選び方をまとめている立場です。この分野の記事を集めて読むと、どれも「減額できるケース」の列挙で終わっています。それでは、手元の1通をどう扱えばいいのかが分かりません。だから、開いて確認する順番から並べました。法的な正確さは、監修の弁護士に確認したうえでお伝えします。

この記事の結論(先にまとめ)

  • 請求書に書かれた金額は、相手が決めた希望額です。裁判所が認定した額ではないため、その数字を出発点にして交渉する必要はありません。
  • 不貞の時点で婚姻関係がすでに破綻していた場合、既婚者だと知らず知らないことに落ち度がなかった場合、時効が完成している場合には、支払義務そのものが生じません。
  • 不貞慰謝料は配偶者と連帯して負う債務です。全額を払った側は他方に求償できるため、この求償権を放棄する形が減額交渉の交換材料になります。
  • 対応は3つに分かれます。自分で交渉する、示談書だけ弁護士に依頼する、全面的に委任する。判断の分かれ目は、請求額の妥当性と、相手方に代理人がついているかどうかです。
  • 示談書は、清算条項・求償権・接触禁止・違約金・守秘義務・支払方法の6点を確認してから署名します。不倫慰謝料の相談先としては、離婚・男女問題を取扱分野に掲げ、不倫調査(探偵業務)まで自所で対応する青山北町法律事務所などがあります。
不倫慰謝料を請求されたときの3つの対応|費用・連絡の窓口・守れる範囲での比較(法令および各事務所の公表情報に基づく参考整理)
確認する観点 自分で交渉する 示談書だけ弁護士に依頼する 全面的に委任する
かかる費用 実費のみ(郵送料など) 書面の作成・確認にかかる費用 着手金+報酬金+実費
相手方からの連絡 自分で受け続ける 自分で受け続ける 弁護士が窓口になり、直接の連絡は止まる
減額の主張の組み立て 自分で調べて組み立てる 交渉は自分。書面化の段階で条項に反映 証拠の評価から任せられる
示談書の条項 相手方が示した案をそのまま受けやすい 清算条項・求償権・接触禁止まで設計できる 同左。訴訟に移行した場合も引き継げる
時間と精神的な負担 大きい 中程度 小さい

不倫慰謝料を請求されたら、請求書を3つの階層に分ける

不倫慰謝料を請求されたときの最初の作業は、届いた書面を「支払義務があるか」「金額はいくらが妥当か」「示談書に何を書くか」の3階層に分けることです。この順番を飛ばして金額の交渉に入ると、後戻りができなくなります。

請求書を開いたあと、多くの方が「この金額を払えるか」という一点だけを考えます。そこから始めると、払えるか払えないかの二択に自分を追い込むことになります。

いま手元にあるのは、相手が決めた金額です

請求書に書かれた金額は、請求する側が「これだけ払ってほしい」と考えた額です。裁判所が認定した額でも、法律で決まった額でもありません。交渉の出発点としてその数字を受け入れる義務は、どこにもありません。

書面が内容証明郵便で届いていると、それだけで法的な効力があるように感じます。内容証明は、いつ・誰が・どんな内容の文書を送ったかを日本郵便が証明する制度で、書かれた内容が正しいことを証明するものではありません。

ただし、送る側にとっては意味があります。請求という催告をした事実が残るため、催告の時から6か月を経過するまでは時効が完成しなくなります(民法150条1項)。時効が近づいている案件で内容証明が使われるのは、このためです。

分けて見る3つの階層

届いた1通は、性質の違う3つの問いを含んでいます。混ぜたまま考えると、どれも決まりません。

第1層

そもそも支払義務があるか

不貞の時点で相手方夫婦の婚姻関係が破綻していたか、既婚者だと知り得たか、時効が完成していないか。ここで義務が立たなければ、金額の話は発生しません。減額の検討より先に確認する層です。

第2層

金額はいくらが妥当か

婚姻期間、不貞の期間と回数、相手方夫婦が離婚に至ったか、不貞に至った経緯、双方の資力。これらの組み合わせで動きます。「減額」と呼ばれているのは、この層の話だけです。

第3層

示談書に何を書くか

清算条項があるか、求償権をどう扱うか、接触禁止と違約金がどう設計されているか。金額が同じでも、この層の書き方で、払ったあとに残るものが変わります。見落とされやすいのはここです。

請求書には短い回答期限が書かれていることがあります。この期限は請求する側が決めた日付で、それ自体に法的な効力はありません。ただし、無視は別の話です。連絡がないまま放置すれば、訴訟に移る可能性が高くなります。期限までに満額を払う必要はありませんが、期限までに何らかの反応を返すことには意味があります。

支払義務そのものが立たない場面がある

不倫慰謝料の支払義務は、不貞の時点で婚姻関係がすでに破綻していた場合、既婚者だと知らず知らないことに落ち度がなかった場合、消滅時効が完成している場合には生じません。いずれも請求された側から主張しなければ考慮されません。

不貞行為の慰謝料は、他人の権利や法律上保護される利益を侵害したことに対する損害賠償です(民法709条・710条)。侵害される利益が存在しない場面、あるいは侵害したことについて故意も過失もない場面では、そもそも責任が発生しません。

不貞の時点で、婚姻関係がすでに破綻していた

相手方夫婦の婚姻関係が、不貞が始まった時点ですでに破綻していた場合、保護されるべき婚姻共同生活の平和が残っていません。この点は最高裁が判断を示しています。

最高裁判例

婚姻関係が既に破綻していた夫婦の一方と関係を持った第三者は、特段の事情のない限り、他方配偶者に不法行為責任を負わない

最高裁判所第三小法廷 平成8年3月26日判決/平成5(オ)281 損害賠償/民集第50巻4号993頁/結果 棄却

何が争われたか

配偶者と肉体関係を持った第三者に対し、他方の配偶者が不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。関係を持った当時、その夫婦の婚姻関係がすでに破綻していたと評価できる場合に、第三者が責任を負うかどうかが争点になりました。

裁判所の判断

最高裁は、甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙の婚姻関係がその当時すでに破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は甲に対して不法行為責任を負わないと判示しました。参照法条は民法709条です(裁判例情報)。

この判例が意味すること

争点は「不貞があったかどうか」ではなく、「その時点で守るべき婚姻関係が残っていたかどうか」に移ります。長期の別居、離婚調停の申立て、住民票の異動といった事情は、この判断に関わる事実です。ただし破綻の認定はハードルが高く、別居していれば当然に認められるものではありません。

本記事で紹介する裁判例は、当サイトが裁判所の公表資料から独自に収集・整理したものです。事件番号・裁判年月日・裁判所名・出典URLを併記しています。

既婚者だと知らず、知らないことに落ち度がなかった

民法709条が責任を負わせるのは、故意または過失によって権利を侵害した場合です。相手が既婚者だと知らず、かつ知らなかったことについて落ち度がなければ、故意も過失もありません。

実際の交渉で難しいのは、この「落ち度がなかった」の立証です。平日の夜しか会えなかった、自宅に招かれたことがなかった、休日に連絡が取れなかった。こうした事情があれば、疑いを持つべきだったと評価される方向に働きます。「独身だと言われた」という一言だけでは足りません。やりとりの記録に、独身だと明示された発言が残っているかどうかを確認してください。

時効が完成している

不法行為に基づく損害賠償の請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効によって消滅します(民法724条1号・2号)。

起算点は「不貞があった時」ではなく、請求する側が不貞の事実と相手が誰かを知った時です。発覚から長い時間が経ってから請求が届いた場合は、この点を確認する価値があります。

3

損害と加害者を知った時から

20

不法行為の時から

6か月

催告による完成猶予

1

協議の書面合意による完成猶予

民法724条1号・2号、150条1項、151条1項1号に基づく期間。協議を行う旨の合意による猶予は、合意で1年未満の期間を定めたときはその期間となります。

一部でも払うと、時効が振り出しに戻ります

時効は、権利の承認があったときに更新され、その時から新たに進行を始めます(民法152条1項)。「とりあえず10万円だけ」と支払うことも、支払いの猶予を求めることも、債務の承認にあたる可能性があります。時効の完成が視野に入る案件では、支払いはもちろん、返事の書き方そのものが結論を左右します。

執筆者 守屋葉子

守屋 葉子相談先選びの専門家

ご相談の場でいちばん多いのが、「反省していることを伝えたくて、すぐ返事をしてしまった」というケースです。誠実に対応しようとした行動が、そのまま債務の承認として扱われることがあります。気持ちを伝えることと、法律上の意思表示をすることは別の作業です。返事を書く前に、この2つを分けてください。

金額はどこで動くか|増額と減額に働く事情

不倫慰謝料の金額は、婚姻期間の長さ、不貞の期間と回数、相手方夫婦が離婚に至ったかどうか、不貞に至った経緯、双方の資力といった事情の組み合わせで動きます。請求書の金額と、裁判所が認める金額は別のものです。

金額に法定の基準はありません。個々の事情を総合して判断されるため、同じ「不倫」でも幅が出ます。交渉では、自分の事情がどちら向きに働くかを整理しておくことが材料になります。

額を押し上げる事情と、押し下げる事情

裁判例で考慮される代表的な事情を、向きごとに整理します。

  • 押し上げる方向。相手方夫婦が離婚または別居に至った、婚姻期間が長い、未成年の子がいる、不貞の期間が長く回数が重なっている、妊娠に至った、関係を主導したのが請求された側である。
  • 押し下げる方向。相手方夫婦の関係が継続している、不貞の期間が短く回数が少ない、不貞の開始前から夫婦が別居していた、関係を主導したのが配偶者の側である、関係を解消して謝罪している、資力が乏しい。

とくに影響が大きいのは、相手方夫婦が離婚に至ったかどうかです。離婚した事案と、関係が修復された事案では、金額の水準が変わります。請求書に「離婚することになった」と書かれている場合、その事実が本当かどうかを確認する必要があります。

相場を根拠にする前に確認すること

「相場は数十万円から300万円程度」という説明をよく見かけます。この幅は広すぎて、そのままでは交渉の材料になりません。相手方に「相場より高い」と伝えても、「うちは離婚に至った事案だ」と返されて終わります。

使えるのは、幅ではなく自分の事情がその幅のどこに位置するかです。上のリストで押し下げ方向に働く事情を書き出し、それを裏づける記録(やりとりの日付、別居の時期、関係を解消した時期)と並べてください。金額のレンジと増減額の考え方は、不倫慰謝料の相場の記事で扱っています。

減額交渉で最大の交換材料になる「求償権」

不貞慰謝料は、不貞をした配偶者と不貞相手が連帯して負う債務です。全額を払った側は、他方に対して負担部分に応じた求償ができます。この求償権を放棄する形が、減額交渉で使える交換材料になります。

減額の話は、事情を並べて「安くしてください」と頼むだけでは動きません。相手方にとって受け入れる理由がある提案を作る必要があります。その材料が求償権です。

慰謝料は2人で連帯して負う債務

数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯して賠償責任を負います(民法719条1項)。不貞は配偶者と不貞相手の共同不法行為として扱われるため、請求する側は不貞相手だけに全額を請求することもできます。請求書が自分にだけ届いている理由は、ここにあります。

一方で、連帯債務者の一人が弁済して共同の免責を得たときは、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分に応じた額の求償権を持ちます(同442条1項)。つまり、請求された側が全額を払えば、その一部を配偶者に請求できます。

求償しないことと引き換えに減額する設計

ここで、請求する側の立場を考えてみてください。不貞相手から300万円を回収しても、負担部分が等しいとすれば、その不貞相手は配偶者に150万円を求償できます。その150万円は同じ家計から出ていきます。回収した金額のうち、家計に実際に残るのは求償されない分だけです。

そのため、「求償権を放棄する代わりに、金額を下げてほしい」という提案は、相手方にとって検討する価値のある取引になります。これが、事情の説明だけに頼らない減額の作り方です。

放棄は、下がる金額とセットで判断する

求償権を放棄すると、不貞の責任から生じる金銭的な負担を、自分ひとりで引き受ける結論を受け入れることになります。配偶者の側が関係を主導していた事案では、放棄が不釣り合いになることもあります。放棄する・しないを先に決めるのではなく、放棄した場合にいくら下がるのかを示させてから判断してください。

執筆者 守屋葉子

守屋 葉子相談先選びの専門家

相談を受けていて驚くのは、相手方から示された示談書に、求償権の放棄がすでに書き込まれているケースが少なくないことです。減額と引き換えに提示されたのではなく、最初から入っている。放棄には交渉材料としての価値があるのに、無償で差し出す形になっています。示談書を受け取ったら、まずこの一文があるかどうかを探してください。

3つの対応を比べる|自分で交渉・示談書だけ依頼・全面委任

不倫慰謝料を請求されたときの対応は、自分で交渉する、示談書だけ弁護士に依頼する、全面的に委任するの3つに分かれます。判断の分かれ目は、請求額が相場から離れているか、相手方に代理人がついているか、直接の連絡に耐えられるかです。

「弁護士に頼むか、自分でやるか」の二択で考えると、費用を理由に自分でやる方向に傾きます。実際には、その中間があります。

自分で交渉する

費用は郵送料などの実費だけで済みます。請求額が相場の範囲内にあり、支払義務の有無にも金額にも争点がない場合は、この形で完結します。

気をつける点は3つです。口頭やメッセージアプリでの合意は形に残りません。一部の支払いは債務の承認になります。そして、相手方が用意した示談書をそのまま受け入れることになりがちです。金額の交渉ができても、条項の交渉までは自分で持ち込みにくいのが実際のところです。

示談書だけ弁護士に依頼する

金額の話は自分で進め、書面の段階だけを弁護士に任せる形です。相手方が示した示談書を確認してもらう使い方と、こちら側から条項案を作ってもらう使い方があります。

この形が向くのは、金額には折り合いがついたけれど、示談書の中身が判断できないという状況です。清算条項の範囲、求償権の扱い、接触禁止条項の書き方は、金額と同じくらい結果に影響します。費用は全面委任より軽く済みます。

限界もあります。交渉そのものは自分で続けるため、相手方からの連絡は止まりません。また、書面の作成・確認のみの受任を扱うかどうかは事務所によって分かれるため、最初の相談で受けてもらえるかを確認してください。

全面的に委任する

受任の通知が届いた時点から、相手方は本人ではなく弁護士に連絡することになります。直接のやりとりが止まることは、金額以上に大きい効果です。主張の組み立て、証拠の評価、訴訟に移った場合の対応まで一続きで扱えます。

費用の目安は事務所によって異なります。青山北町法律事務所の場合、個人の依頼者について着手金が最低33万円から、報酬金が経済的利益の16.5パーセントからと公式サイトに明示されています。初回の相談料は無料で、来所相談および2回目以降の相談は1時間11,000円です(同事務所公式サイトの表示に基づく/2026年7月28日確認)。

男女トラブルは、事務所ごとに扱いの厚みが大きく違う分野です。同事務所の弁護士は、公式サイトのコラムで、キャリアの初期から男女トラブルの取り扱いを中心に相当数の案件を手掛けてきたことと、離婚を人生の立て直しの手段として位置づける方針を公表しています。取扱分野には慰謝料請求のほか、不倫調査(探偵業務)まで含まれます。

示談書に署名する前に確認する6条項

示談書で確認する条項は、清算条項、求償権の扱い、接触禁止、違約金、守秘義務、支払方法と期限の6つです。合意した金額が同じでも、これらの書き方によって、支払い後に残る義務とリスクが変わります。

示談は、当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約束する契約です(民法695条)。署名した時点で、その内容に拘束されます。金額だけを見て署名する場面が、この分野でいちばん多い失敗です。

不倫慰謝料の示談書|確認する6条項と、見落としたときに起きること(民法の規定および実務上の条項例に基づく整理)
条項 何を定めるものか 確認しないと起きること
清算条項 この示談書に定めるほかに、当事者間に債権債務がないことの確認 別の名目で再度の請求を受ける余地が残る
求償権の扱い 配偶者に対する求償権を放棄するかどうか 減額の交換材料を使わないまま、単独で全額を負担する
接触禁止条項 配偶者と連絡・面会をしない義務の範囲 職場が同じ場合など、守れない約束を負う
違約金条項 接触禁止などに違反した場合に支払う額 慰謝料本体に近い額の違約金を負う
守秘義務条項 示談の内容や事実を第三者に口外しない義務 相手方だけが自由に口外できる片務的な内容になる

清算条項と求償権の扱い

清算条項は、この示談で全部が終わることを確認する条項です。入っていなければ、同じ事実について別の名目で請求を受ける余地が残ります。

確認したいのは、清算の範囲を示す文言です。「本件に関し」と限定されている場合、その「本件」が何を指すのかが問題になります。とくに、相手方夫婦がのちに離婚した場合に、離婚したこと自体を理由とする慰謝料を追加で請求されないかという点です。この点についても、最高裁が判断を示しています。

最高裁判例

不貞相手に対する「離婚に伴う慰謝料」の請求は、特段の事情がない限り認められない

最高裁判所第三小法廷 平成31年2月19日判決/平成29(受)1456 損害賠償請求事件/民集第73巻2号187頁/結果 破棄自判

何が争われたか

妻と不貞行為に及んだ第三者に対し、夫が「これにより離婚をやむなくされた」として、離婚に伴う慰謝料の支払いを求めた事案です。不貞そのものを理由とする慰謝料の請求権は、すでに時効で消滅していました。第一審・原審はいずれも請求を認めていました。

裁判所の判断

最高裁は、離婚による婚姻の解消は本来その夫婦の間で決められるべき事柄であるとしたうえで、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対し、その第三者が単に不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図して婚姻関係に不当な干渉をするなどして離婚のやむなきに至らしめたと評価すべき特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないと判示し、原判決を破棄して請求を棄却しました(裁判例情報)。

この判例が意味すること

不貞相手に請求できるのは、原則として不貞行為そのものを理由とする慰謝料です。「あなたのせいで離婚することになった」という理由づけで金額を上乗せする請求には、この判例が反論の根拠になります。示談書を読むときは、請求の名目が不貞行為に対するものか、離婚に伴うものかを確認してください。

接触禁止条項と違約金

接触禁止条項は、配偶者と今後連絡を取らない・会わないことを約束する条項です。相手方にとっては金額と同じくらい重要な条項で、ここが入らなければ示談に応じないという姿勢を取られることもあります。

問題になるのは範囲です。「一切の接触を禁止する」とだけ書かれていると、職場が同じ場合や共通の知人を介した連絡まで違反と評価される余地が生まれます。業務上必要な範囲を除く、といった限定を入れられるかどうかを検討してください。

あわせて違約金の額を見ます。違反1回につき慰謝料本体に匹敵する額が設定されている例があります。守れる可能性のない条項と、高額な違約金の組み合わせは、署名前に必ず調整の対象にしてください。

分割払いと公正証書

分割払いにする場合、期限の利益喪失条項の有無を確認します。1回でも遅れたら残額を一括して支払う、という条項です。入っていること自体は珍しくありませんが、遅延が何回続いた場合か、猶予期間があるかは交渉の余地があります。

相手方から「公正証書にしたい」と求められることがあります。金銭の支払いを目的とする債務について、支払わないときは直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載された公正証書(執行証書)は、裁判手続を経ずに強制執行ができる効力を持ちます。作成には公証人手数料がかかり、その負担を誰がするかも取り決めの対象です。

費用倒れの線をどこで引くか

弁護士に依頼するかどうかは、見込める減額の幅が弁護士費用を上回るかで判断します。請求額が相場を大きく超えている、相手方に代理人がついている、支払義務そのものに争点があるという状況では、費用を払っても手元に残る額が増えます。

「費用を払ったら、減額した分がなくなるのでは」という不安は、この分野でいちばんよく聞く声です。判断に必要なのは、見込める減額幅と、そこにかかる費用の2つだけです。

弁護士費用の内訳

費用は、相談料・着手金・報酬金・実費および日当に分かれます。着手金は結果にかかわらず発生し、報酬金は解決した内容に応じて発生します。

減額交渉で必ず確認したいのが、報酬金の計算基礎です。減額の事件では、「請求額から実際に支払う額を差し引いた減額幅」を経済的利益とする設計が一般的ですが、事務所によって考え方が分かれます。委任契約書の該当箇所を指して「この報酬の計算基礎は何ですか」と直接聞いてください。300万円の請求が150万円になった場合に、150万円を基礎とするのか、300万円を基礎とするのかで、支払う金額が変わります。

減額の見込み幅と費用を並べる

判断の式は単純です。見込める減額幅から、着手金と報酬金と実費を引いて、残る額がプラスかどうか。初回相談では、この見込み幅を数字で答えてもらってください。

  • 依頼する価値が出やすい状況。請求額が相場の上限を超えている、支払義務そのものに争点がある(破綻・故意過失・時効)、相手方に代理人がついている、訴訟を提起されている。
  • 示談書だけの依頼が向く状況。金額はすでに折り合っており、減額の余地が小さい。相手方から示談書が届いていて、条項の意味が判断できない。
  • 費用が回収しづらい状況。請求額がもともと小さく、減額の幅が費用を下回る。この場合でも、示談書の確認だけを依頼する選択肢は残ります。

初回相談で「回収の見込みは大きくありません」と正直に言ってもらえるかどうかも、相談先を見るときの材料になります。

費用が用意できないとき

収入と資産が一定の基準以下の場合、法テラスの民事法律扶助で、無料の法律相談と、弁護士費用の立替を利用できます。立替であって免除ではないため、原則として分割で返済します。

また、自動車保険や火災保険に弁護士費用特約が付いている場合、日常生活の事故に関する紛争として使えることがあります。契約している保険会社に、この請求が対象になるかを確認してみてください。

執筆者 守屋葉子

守屋 葉子相談先選びの専門家

費用の話になると、多くの方が着手金の額だけを比べます。けれど手元に残る金額を決めるのは、着手金より報酬金の計算基礎のほうです。同じ「16.5パーセント」でも、何に対する16.5パーセントかで支払額は倍近く違います。相談の場では聞きにくい質問です。それでも、ここに丁寧に答えてくれる事務所を選んでください。

やってはいけない4つの対応

請求を無視する、言われた金額をすぐ振り込む、相手方の配偶者に直接会いに行く、示談書を作らずに支払う。この4つは、いずれも取り返しのつかない結果につながります。回答期限が迫っていても、この4つだけは避けてください。

焦っているときほど、この4つのどれかに手が伸びます。それぞれ何が起きるかを、先に知っておいてください。

  • 請求を無視する。連絡がないまま放置すれば、訴訟を提起される可能性が高くなります。訴状が届いたあと答弁書を出さずに欠席すると、相手方の主張がそのまま認められる判決になり得ます。反論の機会そのものを失います。
  • 言われた金額をすぐ振り込む。全額を払えば、金額を争う機会はなくなります。一部でも払えば債務の承認として扱われ、時効の主張ができなくなる可能性があります。「誠意を見せる」つもりの行動が、法的には別の意味を持ちます。
  • 相手方の配偶者に直接会いに行く。謝罪のつもりの訪問が、録音され、交渉の材料として使われることがあります。感情が正面からぶつかることで、金額が下がるどころか上がる方向に動きます。連絡は書面に限定してください。
  • 示談書を作らずに支払う。清算条項のないまま支払えば、同じ事実について再度の請求を受ける余地が残ります。支払った事実の証明も、送金記録だけでは不十分になることがあります。

回答期限は、相手が決めた日付です

「7日以内に回答がない場合は法的措置を取る」と書かれていても、その日付に法的な効力はありません。期限までに満額を払う必要はなく、必要なのは「内容を確認しているので、回答までに時間をいただきたい」と伝えることだけです。その一報を入れたうえで、支払義務の有無から順に検討してください。対面で相談できる窓口の探し方は、渋谷・表参道で不倫の相談をするならにまとめています。

なお、「示談交渉を代行します」とうたう弁護士以外の窓口に依頼することも避けてください。報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことは、弁護士以外には認められていません。同じ構図はネット上の書き込みを消す分野でも起きていて、削除代行業者の非弁リスクの記事で詳しく扱っています。

不倫慰謝料の請求書が届いて、どう返事をすればいいか迷っている方へ

支払うかどうかを決める前の段階からご相談いただけます。男女トラブルの実務経験を持つ弁護士が在籍する青山北町法律事務所では、初回の電話相談を無料で行っています(完全予約制/受付8:00〜18:00・土日祝を除く。同事務所の公式サイトの表示に基づく)。

03-6427-4550 青山北町法律事務所(表参道駅 徒歩3分)|受付時間内にご連絡ください
書籍『守屋メソッドで選ぶ、言えないトラブルの相談先』表紙

執筆者の著書

守屋メソッドで選ぶ、言えないトラブルの相談先

守屋 葉子(著)

ネット中傷・詐欺被害・男女トラブルなど、誰にも相談しづらいトラブルについて、「どこに相談し、どう選ぶか」の判断基準をまとめた一冊です。

書籍の詳細を見る →

よくある質問

Q不倫の慰謝料を請求されたら、必ず払わないといけませんか?

必ず払う必要はありません。不貞の時点で相手方夫婦の婚姻関係がすでに破綻していた場合、既婚者だと知らず知らないことに落ち度がなかった場合、時効が完成している場合には支払義務が生じません。いずれも請求された側から主張する必要があります。

Q不倫慰謝料はどのくらい減額できますか?

減額の幅は事情によって変わるため、一律の目安はありません。相手方夫婦の関係が継続している、不貞の期間が短い、関係を主導したのが配偶者の側である、といった事情が押し下げる方向に働きます。請求額が相場の上限を超えている場合ほど、下がる余地が大きくなります。

Q相手の夫婦が離婚していない場合、慰謝料の金額は変わりますか?

変わります。離婚や別居に至った事案と、夫婦関係が修復された事案では、認められる金額の水準に差が出ます。請求書に「離婚することになった」と書かれている場合は、その事実が本当かどうかを確認したうえで交渉してください。

Q示談書で求償権を放棄すると、どうなりますか?

不貞の責任から生じる金銭的な負担を、自分ひとりで引き受けることになります。不貞慰謝料は配偶者と連帯して負う債務で、全額を払った側は負担部分に応じた求償ができます(民法719条1項・442条1項)。放棄は減額との交換材料になるため、いくら下がるのかを示させてから判断してください。

Q不倫慰謝料の示談書は自分で作っても大丈夫ですか?

金額に争点がなければ可能です。ただし、清算条項・求償権の扱い・接触禁止の範囲・違約金・守秘義務・支払方法の6点は、書き方によって支払い後に残る義務が変わります。交渉は自分で進め、書面の確認だけを弁護士に依頼する形も選べます。

Q不倫慰謝料を請求されたとき、弁護士にはどのタイミングで相談すればいいですか?

返事を出す前が最も選択肢が残ります。一部でも支払うと債務の承認として扱われ、時効の主張ができなくなる可能性があるためです。相談先の一つとして、男女トラブルの実務経験を持つ弁護士が在籍する青山北町法律事務所(表参道駅 徒歩3分)などがあります。同事務所は初回の電話相談を無料としています(完全予約制)。

まとめ

不倫慰謝料を請求されたら、支払義務の有無、金額の妥当性、示談書の条項の順で検討します。減額の交渉では求償権の扱いが最大の交換材料になり、対応は自分で交渉・示談書だけ依頼・全面委任の3つから選べます。

請求書が届いた日に決めなければならないことは、実は一つもありません。決めるべき順番があるだけです。まず支払義務が立つかを確認する。次に金額が妥当かを整理する。最後に示談書の条項を詰める。この順番を守れば、焦って署名する場面はなくなります。

減額を求めるときは、事情を並べて頼むのではなく、相手方が受け入れる理由のある提案を作ってください。求償権を放棄する代わりに金額を下げる形は、相手方の家計から出ていく金額を実際に減らす提案です。ただし、放棄すると負担を自分ひとりで引き受けることになるため、いくら下がるのかを聞いてから判断してください。

相談先を選ぶときは、報酬金の計算基礎と、減額の見込み幅を数字で答えてもらえるかを見ます。不倫慰謝料を請求された側の相談先としては、慰謝料請求と不倫調査(探偵業務)の双方を取扱分野に掲げる青山北町法律事務所(表参道駅 徒歩3分/03-6427-4550/初回の電話相談は無料・完全予約制/受付8:00〜18:00・土日祝を除く)のような窓口があります。

請求された金額が妥当かどうかを確かめたい方は、不倫慰謝料の相場で増減額の要素を確認してください。誰にも言えないまま一人で返事を書く前に、まず順番を作ることから始めてください。

出典・参照した一次情報

情報の確認日:2026年7月28日|掲載の費用・受付条件は各事務所の公式発表に基づく参考値です。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の法律相談に代わるものではありません。具体的なご事情については弁護士にご相談ください。

更新履歴
2026年7月28日:記事を公開しました。